ハリケーン「カトリーナ」報道にみられる人種差別主義

http://d.hatena.ne.jp/claw/20050917を経由して、古森義久氏(現職:産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。国際問題評論家。杏林大学客員教授。)の記事を読みました。

http://nikkeibp.jp/sj2005/column/i/06/index.html
http://nikkeibp.jp/sj2005/column/i/06/02.html

 こうもあからさまな「人種差別主義者」ぶりを見せられると、さすがに驚きます。


ハリケーンによる水害は自然発生の緊急事態として市民みんなに平等に襲いかかった。被害を受ける可能性は人種や民族の相違にかかわらず、みな平等である。だから被害を受けたことを原因として盗みに走るならば、略奪者のなかに白人やアジア系の市民が少数でもいたほうが自然となる。ところがそれがいないのだ。

 今回のハリケーンによる被害が大きくなった原因の一つとして、避難したくても避難できない貧しい人々が多数いたことが挙げられています。そして、そのような人々のほとんどが黒人であったことも、指摘されているところです。それなのに、どうして「被害を受ける可能性は人種や民族の相違にかかわらず、みな平等である」などと言えるのでしょうか?


こうした現象について日ごろ大手マスコミのリベラル偏向を大胆に非難する保守派の論客ラッシュ・リムボウ氏が論評していた。リムボウ氏はラジオのトークショー・ホストとしては全米第一の人気を保つ重鎮である。
「大手マスコミは人種差別主義だと非難されることを恐れて、略奪者がみな黒人だという重要な事実を報じないのだ。リベラル派の政治家たちは逆に『黒人は日ごろ抑圧されているので、緊急時に略奪をすることも理解できる』という態度をとる。いずれも間違った対応だ」

 このリムボウ氏という人物が、現在のアメリカ社会で実際にどの程度の支持を得ているのかはわかりませんが、このような発言が本当に支持されているのだとしたら、気になるところではあります。現代のアメリカ社会ではracistと呼ばれることは最大級の非難を意味する、という話を何年か前に聞いたことがありますが……。


 この点、リムボウ氏はびっくりするほど大胆な考察を一日三時間もの自分のラジオ番組で述べていた。
ニューオーリンズでここ数日、起きたことは数世代にもわたるエンタイトルメント(社会福祉の受給権利)の失敗の現象なのだ。自分の努力よりも政府からの福祉の受給に依存する心理が『自分たちは社会で恵まれない層だから、社会や政府から特別の恩恵を受けることのできる特権がある』という潜在意識を生んできた結果なのだ」

 つまり黒人は政府への依存が強すぎて、いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなすような独特の心理を抱きがちだ、と示唆しているのである。その示唆の背後には社会福祉を拡大してきたリベラル派の「大きな政府」への辛辣な批判がある。黒人の側からすれば、飛んでもない糾弾ということになろう。だが略奪者はみな黒人だという事実を否定することもできないのである。しかも過去の天災や暴動の際に大都市で起きた他の大規模略奪も、実行者はほぼすべて黒人だったというのも事実なのだ。

 まず、「数世代にもわたるエンタイトルメント(社会福祉の受給権利)」というけれど、そういうものが始まったのはどう遡っても1960年代中頃からなのであり、長く見積もっても40年程度なのですから、これを「数世代にもわたる」と表現することは誇張が過ぎるでしょう。
 そして、リムボウ氏が「ニューオーリンズでここ数日、起きたことは〜自分の努力よりも政府からの福祉の受給に依存する心理が『自分たちは社会で恵まれない層だから、社会や政府から特別の恩恵を受けることのできる特権がある』という潜在意識を生んできた結果なのだ」と述べ、これを受けて古森氏が「黒人は政府への依存が強すぎて、いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなすような独特の心理を抱きがちだ」と述べているのは、無理のある話だと思います。
「黒人は政府への依存が強すぎて」という理由付けから、黒人は政府の助けをあてにして自助努力しない、と言うのなら、一応の理屈としてはわからないでもありません。しかし、「いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなすような独特の心理を抱きがちだ」というのは、いくらなんでも飛躍がありすぎでしょう。なぜ、「政府への依存が強すぎ」ると、「いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなす」ようになってしまうのでしょう?全く不可解な理屈です。
 ここで憶測を述べるなら、古森氏は(そしてリムボウ氏も)、福祉による「所得の再分配」は、貧者が富者の財産を奪うことである、と考えているのではないでしょうか。つまり、普段から福祉政策を通じて貧者である黒人は富者の財産を奪っているのだから、「いざという事態には他者の財産をも入手してよいとみなす」ようになるのだ、という理屈になるのではないかと思います。古森氏は、「その示唆の背後には社会福祉を拡大してきたリベラル派の「大きな政府」への辛辣な批判がある」とも述べていますが、この「大きな政府」批判が正しいのなら、いわゆる「福祉国家」で災害が起こった場合、そこでは福祉の恩恵を受けている人々による略奪事件が頻発する、ということになるのではないでしょうか。勿論、そんな馬鹿げたことは起こっていませんが。
それから、古森氏はさらりと「過去の天災や暴動の際に大都市で起きた他の大規模略奪も、実行者はほぼすべて黒人だった」と述べていますが、これまた随分と大胆な言葉です。「ほぼ全て黒人だった」ことが「事実だった」とする根拠は、一体何なのでしょうか?「過去の天災や暴動の際に大都市で起きた他の大規模略奪」に関して、略奪犯の人種構成を調べた統計などがあるのでしょうか?