教科書検定

 朝日新聞三者三論の、元文部省初等中等教育局長の菱村幸彦氏による「欠陥指摘、当然の制度」という文章には、ひっかかる点がいくつかありました。
 まず、「家永教科書訴訟(65〜97年)」という言葉が冒頭に出ていながら、文章の中ほどで「家永訴訟への対抗として「新編日本史」の動きが出た」と書いているのは、かなり変です。何故なら「新編日本史」が出たのは80年代中頃であり、これを裁判が始まってすでに約20年が経過していた「家永訴訟への対抗」とするのは無理があります。「新編日本史」は、80年代初頭のいわゆる「教科書問題」で中国・韓国などからの批判が高まり、近隣諸国条項が出来たことに対して、右翼的な学者(と呼べる人間は執筆者の中にはほとんどいませんでしたが)が中心になって執筆されたもの、とするのが経緯としては妥当なところだと思います。
 そして、教科書検定が必要な理由の一つとして「中立性の維持」を挙げているのに、文章の後半で「「教科書に自国の主張を書く」こと自体はどこの国も行っていることだ。」と述べているのは、支離滅裂と言わざるを得ません。中立をうたうのであれば、例えば現在問題になっている「竹島」に関しては、日本と韓国それぞれの言い分を併記するべきでしょう(それとも、この人にとって国家とは、絶対的に中立性を持った存在なのでしょうか?)。