松文館裁判

漫画のわいせつ性めぐる裁判、二審も有罪 罰金刑に
2005年06月16日11時16分

 露骨な性描写がある成人向け漫画「蜜室(みっしつ)」を売ったとして、わいせつ図画頒布の罪に問われた出版社「松文館」(東京都豊島区)社長・貴志元則(もとのり)被告(56)の控訴審判決が16日、東京高裁であった。漫画本がわいせつ物にあたるかが公開の法廷で争われた初のケースで、田尾健二郎裁判長は一審と同様にわいせつ物と認めた。一方、量刑判断のなかで「DVDなどの実写表現に比べるとわいせつ性は低い」と情状について考慮。懲役1年執行猶予3年とした一審・東京地裁判決を破棄し、罰金150万円を言い渡した。

 インターネットのアダルトサイトやビデオなど実写による過激な性表現がはんらんするなかで争われたこの裁判で、弁護側はわいせつ性を否定。「漫画については相当露骨な表現でも許容する国民意識が形成されている」「性的刺激は実写物に比べて相当低い」などとして無罪を主張した。

 判決は、昨年1月の一審判決の判断手法をほぼ踏襲した。51年の最高裁判決が示したわいせつの定義である「(1)いたずらに性欲を刺激し(2)普通人の正常な性的羞恥(しゅうち)心を害し(3)善良な性的道義観念に反するもの」を引用。そのうえで、「蜜室」がこの定義にあてはまるかどうかについても「四畳半襖(ふすま)の下張事件」の最高裁判決(80年)が示した、性描写の作品全体に占める比重▽芸術・思想性による性的刺激の緩和の程度――などの判断基準に沿って検討した。


 その結果、「大半が性描写に費やされており、平均的読者がこの漫画から一定の思想を読み取ることは困難」と指摘。「性的刺激を緩和する思想的、芸術的要素もない」などとして、わいせつ物だとの判断を維持した。

 この裁判では一、二審を通じて憲法学者社会学者、漫画家ら著名人が弁護側証人として相次いで出廷。今回適用された刑法175条による表現行為の規制について不当性を訴えた。

 判決によると、貴志被告は02年4月、作者と同社編集局長=いずれも罰金50万円の略式命令が確定=と共謀し、「蜜室」約2万冊を取次業者計16社に卸した。この本は全国の書店計約5300店で販売された。
http://www.asahi.com/national/update/0616/TKY200506160084.html

 「現実と虚構の区別がつかない」人が多いのは、全く困ったことです。そして、51年の最高裁判決を振り返るなら、そういう困った人が多いのは、今も昔も大して変わりがないのかもしれません。
 私自身は、法によって規制されるべき「わいせつ物」がいかなるものかを裁判所が判断するという現状は、「表現の自由」という観点からは相当に問題を含んでいると思っています。例えば、実写ビデオなどの撮影で暴行などが行われるならば、これは当然取り締まられるべきです。しかし、「マンガ」や「小説」といった虚構の世界で「わいせつ」が描かれる場合、それを見たくない人の目に触れないようにする(=ゾーニング)といった規制は必要でしょうが、表現内容そのものを違法と判断することは、非常に危険なことだと思います。