政教分離の原則

 上述の小泉首相答弁書において、戦犯の法的取扱いや東京裁判判決の受諾などについては従来の政府解釈を踏襲したものでしたが、政教分離の原則については解釈を変えたのではないかと思われる部分があります。

 靖国神社内閣総理大臣が参拝することにいかなる問題があるかとのお尋ねについては、法的な観点から申し上げれば、かねて述べているとおり、内閣総理大臣の地位にある者であっても、私人の立場で靖国神社に参拝することは憲法との関係で問題を生じることはないと考える。また、内閣総理大臣靖国神社への公式参拝内閣総理大臣が公的な資格で行う靖国神社への参拝をいう。)についても、国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし、靖国神社において国を代表する立場にある者が追悼を行うことを望んでいるという事情を踏まえて、専ら戦没者の追悼という宗教とは関係のない目的で行うものであり、かつ、その際、追悼を目的とする参拝であることを公にするとともに、神道儀式によることなく追悼行為としてふさわしい方式によって追悼の意を表することによって、宗教上の目的によるものでないことが外観上も明らかである場合には、憲法第二十条第三項の禁じる国の宗教的活動に当たることはないと考える。

 条件付ながら、公式参拝が「憲法第二十条第三項の禁じる国の宗教的活動に当たることはないと考える」というのは、議論を呼ぶところなのではないでしょうか。また、「国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし、靖国神社において国を代表する立場にある者が追悼を行うことを望んでいるという事情」という表現は、少数者の権利保護という観点からすると、かなり問題があるように思われます。