民族文化

 『大塚康生インタビュー アニメーション縦横無尽』(語り手・大塚康生、聞き手・森遊机実業之日本社、2006年)を読んでいます。おそらく、日本のアニメーション史を語る上で欠くことのできない基礎的資料の一つとなるであろう、優れたインタビューだと思います。
 そのインタビューの中に、次のような一節がありました。

大塚 あのね、ロシアのマカロフという人が言っているんですが、愛国心というものは突き詰めていくと、「奇妙な風俗、奇妙な習慣に包まれた村の文化」なんだと。みんながそれを愛してる。ただ、それをどんどん広げていくと、ある時点から、民族主義愛国心に変化しちゃうというんです。本当の意味で国を愛するというのは、地元の村落とか自分たち独自のお祭りのようなものを含む、はたから見るとちょっと珍妙に見えるような文化を愛することだと思う。たとえばバリ島へ行くとね、あそこは全島挙げておかしいんですよ。こう、首を動かして、みんなでしきりにヘンな踊りを踊って(笑)、島中で何かを拝んでいる。あれは、いわゆる愛国心じゃないですね。いわば、愛郷心。(298ページ)

 「はたから見るとちょっと珍妙に見えるような文化を愛すること」という表現が、実に上手いと思います。そして、自分たちの文化や伝統に愛着を感じたり誇りを持ったりすることは自然な感情なのでしょうけれど、その文化や伝統が「はたから見るとちょっと珍妙に見えるような」ものであることを常に心に留めておくことは、結構大事なことなのではないかなあ、と思いました。もしも「はたから見るとちょっと珍妙に見えるような文化」を、「いや、わが国わが民族の伝統である○○は、世界中から尊敬を受けているのだ」と強弁してしまったら、ますます滑稽なことになってしまうでしょうし、実際最近そのような例をよく見かけるような気がしますから(例えばhttp://d.hatena.ne.jp/jimusiosaka/20051112)。