「沖縄の「米軍等の事件・事故」は多すぎるのかどうか」という記事への疑問

 愛・蔵太氏が、保坂展人氏の記事に対して疑問を述べておられます。

 愛・蔵太氏の記事
  http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20100509/jikenjiko

 保坂氏の記事 
 http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/95d8de18a8b1bbe55fa0c0daa805e533


 愛・蔵太氏の記事を拝読し、疑問に感じた点を3つ、申し述べたいと思います。

 まず1点目。
 保坂氏が、沖縄における米軍人等の事件・事故数が1000件前後あることから、沖縄県内の事件・事故発生率は異常に高い、と主張していることに対して、愛・蔵太氏は、「日本の普通の県における事件・事故の発生数・率と、米軍の場合と比べればいいんじゃないか」と述べて、以下のように検証しておられます。

「在沖米軍人・軍属・家族数」は「40416人」(平成20年9月末)です。
「平成20年」の犯罪件数は不明なんですが、「在沖米軍人・軍属・家族数」を固定として考えると、
平成17年の事件・事故率は2.5%、
平成18年の事件・事故率は2.4%
平成19年の事件・事故率は2.2%
ということになります。

 ここで疑問を感じたのは、「在沖米軍人等の事件・事故数」の「米軍人」には、「家族数」は含まれないのではないか、ということです。そこで、少し検索してみたところ、以下のURLが元データであることがわかりました(これは、愛・蔵太氏の記事のコメント欄でも指摘があり、愛・蔵太氏ご自身も追記しておられます)。

 http://www.justmystage.com/home/higaisha/sub49.html

 この「米軍人等による事件・事故件数及び賠償金等支払実績」は、防衛施設庁防衛省のデータに基づいて、「米軍人・軍属による事件被害者の会」が作成したものなのだそうです。だとすれば、「米軍人等」は、「米軍人・軍属」を指し、その「家族」は含まないと考えるのが普通でしょう。
 さて、「在沖米軍人・軍属・家族数40416人(平成20年9月末)」のうち、家族数が何人かといえば、「17792人」です(http://www.pref.okinawa.jp/kititaisaku/1sho.pdf)。ということは、「米軍人・軍属」は「22624人」ということになります。これで計算すると、
平成17年の事件・事故率は4.5%
平成18年の事件・事故率は4.2%
平成20年の事件・事故率は3.9%
ということになります。
 愛・蔵太氏は、千葉県の事件・事故率を「2.1%」、香川県の事件・事故率を「2.332%」とされ、「米軍の事件・事故発生率との有意な差が認められるようには思えません」と主張なさったうえで、「交通事故を含めた事件・事故の発生率は、2.1〜2.5%なら普通」と結論づけておられます。しかし、愛・蔵太氏の論法に則って考えるならば、むしろ有意に事件・事故率は高い、と言うべきなのではないでしょうか。


 次に、2点目の疑問です。
 愛・蔵太氏は、「在沖米軍人等の事件・事故の発生数・率」と「日本の普通の県における事件・事故の発生数・率」とを比較すればよいと主張しておられますが、そもそもこれは適切な比較なのでしょうか。
「日本の普通の県における事件・事故の発生数・率」ということは、その事件・事故を起こした人が属している組織や職種については検討しておられませんので、「日本の普通の県における[一般人によって起こされた]事件・事故の発生数・率」ということですね。そして、これを「在沖米軍人等の事件・事故の発生数・率」と比較するということは、つまり一般人による事件・事故と軍人・軍属による事件・事故とを同列に並べて比較するということになると思います。でも、このような比較で両者の発生率が同じくらいだった場合、だから軍人・軍属による事件・事故の発生率は高くないと結論できるものなのでしょうか?
例えば、以下はあくまでも仮定の話ですが、自衛隊で事件・事故が相次いで自衛隊が非難されたとします。その際に防衛大臣が、一般人による事件・事故の発生率と自衛隊における事件・事故の発生率が同じくらいであることを根拠として、自衛隊による事件・事故は多くないと反論したとしたら、なるほどと納得する人がどのくらいいるものなのでしょうか?


 そして3番目は、追記の以下の部分についてです。

平成20年の沖縄米軍の事件・事故件数はなんとたったの218件。なんで保坂さんはその数字を出さないんだろうなぁ。

 この部分は、正直言って、いささか信じがたいおっしゃりようです。
 以下に、平成11年〜19年の、沖縄における米軍人等による事件・事故数を挙げます。

平成11年 938件
平成12年 957件
平成13年 951件
平成14年 1059件
平成15年 1159件
平成16年 1010件
平成17年 1012件
平成18年 953件
平成19年 888件

 この数字を見れば、平成11〜19年の期間において事件・事故数は1000件近くで横ばい状態であったことがわかるでしょう。それが、平成20年には、5分の1近くにまで急減するわけです。

 「なんで保坂さんはその数字を出さないんだろうなぁ。」
 普通に考えれば、平成20年にはあまりにも特別な事情があったため、「沖縄における米軍人等による事件・事故数」の一般的傾向を考えるには不適切だったからなのではないでしょうか。すなわち、平成20年といえば、2月に米兵による少女暴行事件が起こった年であり、沖縄において米軍に対する非難が近年で最も激しくなった年ではありませんか。だからこそ、米軍も本気で綱紀粛正に取り組まざるをえなくなり、その結果として事件・事故数が激減したのだと思います。
 それにしても、上記の数字の変化を見て改めて驚くのは、「沖国大ヘリ墜落事件」が起こった平成16年と、その翌年の平成17年には、事件・事故数の変化が全く見られないことです。平成20年に事件・事故数が急減したこととあわせて考えますと、「この程度」の事件では、米軍は本気で綱紀粛正には取り組もうとはしなかったのではないか、と思わざるをえません。